ヘルスサイエンス

2009 冬
気・血・水そして「心」
漢方で高血圧症を考える

西洋医学に始まった 血圧の概念

血圧という用語や生理学的な概念、 高血圧症・低血圧症という病名、測定法、多くの臨床症例の報告は約100年以上前から西洋医学が断然先んじています。1628年に英国のハーベイが、血液は心臓から出て心臓に戻る「血液循環説」という画期的な考えを発表し、約10年後に同じ英国のヘールズが血圧の存在を明らかにしました。その後、ロシアのコロトコフらによって、カフ(腕帯)を使用した血圧の測定方法が発見されたのです。

1950~60年代頃からは原因がはっきりせず年齢とともに血圧が上昇する、本態性高血圧症が多く、様々な降圧剤が開発され現在に至っております。


漢方で高血圧を考える

 一方、江戸時代から続く日本漢方には血圧の概念も言葉もありません。高血圧であろうと低血圧であろうと、結局は血圧の異常という点で一致し、その歪みを正 すことを目的とした治療を実践します。その結果、上がり過ぎるものは下がり、下がり過ぎるものは上がり中庸(正常)に戻るわけで、どちらに対しても同じ処方を使うこともあります。まずは高血圧によって生ずる不快な自覚症状や悩みを問診によって捉え、望診、聞診、切診を参考にして「証」を決定し、〔表〕のような漢方薬を採用して治療します。特に高血圧症では血圧の測定値は証決定に大きな役割を果たしますので、現代日本漢方は便宜上、「高血圧症」という西洋医学的な病名を証の一つとして取り入れて治療を行っている のが現状です。問診と聞診を丁寧にすることで緊張が和らぎ、最後に血圧を測ると家庭血圧に近い数値が出るようです。精神的な落ち着きと医師との信頼関係が成立することで素直なデータを得られるのです。どのような場合もその時点での患者本人を直接四診することによって、証と漢方が一致することが何よりも大切なことと思います。


血圧のメカニズム

血圧のメカニズム

「血圧」とは、ポンプの役目をする心臓が収縮・拡張することによって送り出した血液が血管(動脈壁)を押す圧力のことです。心臓を出発した血液は、動脈、毛細血管を経由して各臓器や体の隅々までいきわたり、静脈血として心臓に還流されます。心臓に戻った血液は今度は肺へ回り、二酸化炭素と酸素を交換し、また心臓に戻るという循環が繰り返し続けられているわけです。したがって血圧は心臓の働きや体内の各種組織、臓器、皮膚、末梢の血流の良し悪しなどによって絶えず変動するのです。

例えば激しい運動をすると、心臓や肺の動きが活発になって心拍出量が多くなるため、血圧は高くなります。また、怒りや恐怖、不安、焦りなどを感じている時には、交感神経系が刺激されて血管が収縮して血行を悪くするため、血圧が上がるのです。ちなみに血圧の基準値は130/85mmHg以下が妥当であると国内8学会が合同で発表しています。


高血圧がなぜこわいのか

高血圧症をはじめとする生活習慣病は、過食や運動不足、過労、睡眠不足、心身のストレス過剰などの因子が重なり合うことが要因となります。血液にさまざまな代謝産物やストレスホルモン、脂質、炎症性物質などの異常成分が分泌・排出され、長期にわたり高血圧が続くと末梢の微小循環系の血管を傷害して血行障害を起し、全身の血管病の元凶となるのです。放置すると動脈硬化を起し、最終的には日本人の死因として有名な脳卒中、心筋梗塞だけでなく、腎不全などの重篤な病気を引き起こすため、実は大変こわい己病(きびょう)なのです。

特に高血圧が主因となる脳卒中は日本人の三大死因の一つですから、西洋医学では一般に降圧剤が使用されます。しかし、降圧剤の直接血圧を下げる作用は速効的 で便利である反面、下げ過ぎると起立性低血圧にめまい、動悸などの副作用があります。夜間の低血圧による狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの発作による意識障害や手足のしびれ、運動障害や認知症の発症の原因となる場合もあるので注意が必要です。


高血圧症と漢方薬

未病のうちに治す

西洋医学ではメタボリック症候群の診断基準を設け、健診や指導を行うことで2015年までには高血圧や糖尿病の有病者、または予備軍を25%減少させることを目指しているようですが、これぞまさに漢方で言うところの「未病」を治すことに通じます。常に適正な生活習慣(平常心、呼吸、食事、運動)を実践・養生するよう心掛けることで未病を予防したり、未病のうちに自然治癒力が発揮されて本格的な病気にならないようにすることが重要だと、中国最古の医学書「黄帝内経」の「素問」でも教示されています。20世紀後半は科学技術の急速な進歩に伴い便利な時代となりましたが、その反面、素問で説いている三大病因(外因:外部環境の悪化、内因:七情の乱れ、不内外因:生活習慣の乱れ)の全てがそろうような人々が増えてしまいました。そんな現代だからこそ、未病のうちに治すことが大切なのです。

血圧は日頃から自分で測定して体調の変化を確認することができます。家庭用血圧計もさまざまありますが、基本的には測定誤差が少ない上腕用のものが良いと思います。血圧は時間帯や身体的、精神的活動によってもかなり変化するものです。いつも同じ時間に測って動作時のメモと共にグラフにしておくことは、血圧や健康の管理、未病予防に役立ちます。

漢方治療で数値的に血圧を下げるには4週間程を要しますが、高血圧を起こす根本的な病態を除去するための期間ですから、それを過ぎると根治的に改善され、気持ちよく適正な血圧に戻るので数値だけで一喜一憂することはありません。西洋医学の軽い降圧剤と併用すれば最良な治療になると私は考えております。


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