意外な活躍の話浅井フーズ通信

開眼!ゲルマニウムファイル

2020.12.22

1948年以来、ゲルマニウムはトランジスターをはじめとする様々な用途に使われてきましたが、現在ではシリコン(ケイ素)や、その他の安価な化合物半導体に取って代わられつつあります。でも身近なところにゲルマニウムの意外な用途があるのです。

太陽電池

 最近、地球温暖化や環境保護の観点から、急速に太陽電池に注目が集まっています。もちろん原子力をはじめ風力発電や燃料電池、また海の波や満ち引きを使った波力発電、潮流発電など、さまざまな方法もありますが、将来性においては太陽電池が最も有望と言われています。太陽光を使った発電方法は、1950年代から既に単結晶シリコンを使った研究が始まっていましたが、コストが高すぎて一般用として実用化できたのは70~80年代です。石油ショックなどをきっかけにソーラーシステムへの注目が集まり、研究開発が本格化、一般家庭にも普及し始めました。

 発電の方法は、単結晶・多結晶シリコンやゲルマニウムの光半導体を使用したものから、化合物系半導体へ移行しつつあります。しかし今最も注目を集めているのは集光型太陽発電方式です。これはパラボラアンテナの原理で400~800倍の太陽光をアンテナの中心に集め、太陽電池にその光を当てて発電する方法です。この場合、光を電気に変える変換効率が重要なのですが、その効率を上げるためにはゲルマニウムが必須なのです。ゲルマニウムやシリコンと共に化合物系半導体を組み合わせた多重接合型太陽電池を使うことにより40%以上の変換率を実現しています。既に宇宙空間に巨大なパラボラアンテナを広げて発電し、それをレーザー又はマイクロ波で地上に送り電気に変換する方法が検討されています。宇宙では大気がないため太陽光が地上の3?5倍以上強いこともあり、理論的には巨大なアンテナをいくつも上げることで、将来は地球で必要な電気を賄えるそうです。

赤外線用レンズ

 豚インフルエンザの流行が騒がれ始めた頃、成田空港で到着した搭乗客の体温をサーモグラフィーでチェックする赤外線カメラの映像がテレビで流れました。このカメラのレンズにもゲルマニウムが使われているのです。

 太陽光発電にも使うゲルマニウムやシリコンの単結晶は一見ただの灰色の塊ですが、実は光を通します。光といっても虹の赤よりも波長の長い赤外線の光なので眼には見えません。赤外線は体温のように発熱しているものから放射されるので、それを検知機で捉えることで熱源があることを確認できるのです。また、照射した赤外線の反射を検知し、映像化する技術を中心に赤外線レンズの軍事面での研究が始まり、ゲルマニウム半導体材料を使った屈折型レンズが作られるようになってからは、テレビと同じようにリアルタイムで撮像ができるようになりました。この赤外線技術は軍事面はもとより、サーモグラフィー技術を応用した人体の体表面温度モニタリングなどの医療分野、警備や災害現場での人や動物の捜索、自動車運転時の人回避装置などのセキュリティ、腐敗管理などの食品分野、ビルの欠陥管理などの建築分野等、極めて広範囲に使われています。

光ファイバーと内視鏡

 ケーブルテレビやインターネットなどの情報ネットワーク手段として、光通信という言葉をよく聞くと思います。この高速通信に使われるのが光ファイバーです。光ファイバーケーブルは電話線などの銅線に比べて情報量の多さや伝達スピードが桁違いで、しかも伝達する情報のロスが極めて少ないため、これからの高度情報社会を支えていく重要な手段となっています。実はこの光ファイバーにもゲルマニウムが必須なのです。

 光ファイバーの原料になる石英はシリコンの酸化物で、天然の砂の中に大量に含まれています。砂から純粋なシリコンだけを取り出すために塩素と反応させてシリコンの酸化物をつくり、酸素や水素と混ぜて燃やすと煤状の純度の高い酸化ケイ素ができます。これを集め、溶かして固めると透明な石英ガラスの棒ができるのです。この時、少量のゲルマニウム塩化物を混ぜて燃やすと石英ガラスの屈折率を大きくできます。この屈折率の少し大きな石英ガラスの棒を芯にして、その周りにゲルマニウムを含まない酸化ケイ素の煤を吹き付け、石英ガラスを太らせます。こうして二重構造のファイバーを作り、引き伸ばして非常に細い繊維にします。これを束にしたのが光ケーブルで、この技術は日本で開発されたものです。光通信では赤外線レーザーを使って信号のやり取りをしますが、光ケーブルの芯にあるゲルマニウムを含む石英ガラスに赤外線レーザーの信号を流すと、周囲を包むゲルマニウムを含まない石英ガラスが光を全部反射するため、ほとんどロスなく信号が伝わるのです。

 この光ファイバーを使って開発されたものには内視鏡もあり、胃カメラをはじめ12種類もの内視鏡が開発されています。これも日本で開発されたもので、今では体内を見るだけでなく、内視鏡で手術を行うことで患者さんの負担も軽減され、医療の進歩に貢献しています。

ペットボトル

 ペットボトルがここ数年、急に薄く軽くなったと思いませんか。今話題のエコ的発想でしょうか。ペットボトルの原料であるポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸とエチレングリコールという2種類の化学物質を化学反応でつなげ、長い分子にします。この重合反応を始めるために二酸化ゲルマニウムが使われています。ボトルが薄く軽くなったのは、テレフタル酸とエチレングリコール、そしてゲルマニウムの価格の高騰、つまりコストダウンのためなのです。ちなみに欧米での原料は「アンチモン」が主流だそうです。アンチモンを使ったペットボトルは透明度が低いので日本ではほとんど使われてきませんでしたが、最近でははるかに安いアンチモンが使われ始めているそうです。ところが近年、アンチモンの安全性が問題になり、逆に欧米でゲルマニウムを使い始めているとか。いずれにしてもその安全性は気になるところです。このように私たちの周りにはゲルマニウムが意外な用途で存在するのですから驚きです。でも、これを読んで下さる皆様はもっと身近に、もっと深くゲルマニウムと関わっていらっしゃいますね。これからもさまざまな分野でゲルマニウムとお付き合い下さい。

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