歯周病~重大疾患をも招く 口腔内細菌浅井フーズ通信

ヘルスサイエンス

2020.12.24

口の中は細菌がいっぱい

歯周病は日本人の約80%が罹っているといわれる病気です。しかし、たいしたことはないからと放置してしまう人も多いのでは? 実は、この〝たかが歯周病〟が口腔内にとどまらず全身に影響を及ぼし、しかも命に係わる疾患を招くことも稀ではありません。

そもそも歯周病とは、歯を支えている歯周組織におこる病気をいいます。まず歯ぐきに炎症が起こる歯肉炎になり、そして歯槽骨、歯根膜、セメント質などに炎症が広がって歯周炎に進行します。これらの炎症の最大の原因となるのが口の中に存在する細菌です。

善玉菌・悪玉菌といえば、腸内細菌のことをまず連想しますが、意外なことに口の中にも腸内に匹敵する400~500種類、数千億個の細菌が存在するといわれています。歯に付着する歯垢やプラークと呼ばれるものは、食べかすや汚れと思われがちですが、実際は細菌と細菌の代謝物の塊です。虫歯や歯周病はこの細菌による感染症なのです。 虫歯になる菌、歯周病になる菌は違い、実際はそれぞれ複数の細菌が関係しています。

歳をとるに従って歯周病に罹りやすくなるのは、老化によって歯や歯周組織も抵抗力が弱まるため、口腔内の細菌に感染してしまうからです。抵抗力の強弱や細菌の種類・バランスなどによって歯周病の程度も変わってきます。基本的にはゆっくりと進行する歯周病ですが、抵抗力や免疫力が落ちると歯周病菌の増殖を許し、歯ぐきが腫れた り、痛んだりするのです。

細菌の温床、バイオフィルム

自然界には、集団となって何かに付着し、層を形成していく細菌が多く存在し、これを「バイオフィルム」と呼びます。身近な例ではお風呂や台所の排水溝のヌルヌルがそうです。近年、口腔内では歯垢がバイオフィルムであると言われています。バイオフィルムは歯磨きでは簡単に取れないほど、歯や歯周組織にネバネバと強力に付着しています。バイオフィルムの中の細菌によって歯肉炎が起こると歯周ポケットが深くなり、そこへ歯垢が入り込んでさらにバイオフィルムを形成し、歯周炎へと悪化してしまうのです。さらに、このバイオフィルムに存在する歯周病菌が口腔粘膜から侵入し、血流に乗って体内を回り、心筋梗塞・狭心症・心内膜症などの心臓疾患を起こすリスクが高くなったり、動脈硬化を進行させて脳梗塞を招いたり、歯周病菌が気管に入って肺炎の原因となったりします。また、歯周病が糖尿病を悪化させたり、妊娠トラブルを起こす等々、全身の多岐にわたる疾患に直接あるいは間接的に口腔内の細菌が影響し、命に係わることもあるのです。

咀嚼と唾液で潤滑に

もちろん、口腔内には虫歯や歯周病を防ぐための機能も備わっています。それが唾液です。唾液にも数多くの細菌が含まれているので、虫歯や歯周病の原因にもなり得るのですが、反面、唾液には自浄作用があります。虫歯菌が糖を餌に作り出した乳酸によって酸性になった口の中を中和して中性に戻したり、細菌を洗い流したり、歯の表面を保護する被膜を作ったり、さらに、唾液に含まれるさまざまな抗菌物質で細菌の増殖を抑えるというような働きもしているのです。また、食べ物をスムーズに噛んだり飲み込んだりすることができるのは、唾液が口を潤しているからです。唾液が十分に分泌されていれば舌の動きもなめらかになって会話がしやすくなり、口臭予防にもなるので、良い口腔環境を維持するためには不可欠なものなのです。

私たちは生きていくために食物を食べますが、消化、吸収がうまくいくように、まずは口の中で噛み砕きます。ところが歯周病になったり、老化によって噛む力が弱まったりしてよく噛めなくなると栄養も十分に摂れません。噛む回数が減ると唾液の分泌も減ってしまうので、食事の時にしっかり、たくさん噛むことが胃腸のためにも、口腔ケアのためにも大事なことなのです。

怖い誤嚥性肺炎

口腔の機能でもうひとつ大事なのは、飲み込むことです。普段、意識していませんが、食べ物を噛んで飲み込むには、口の周りや舌、顎、そして喉の筋肉が関係し合って使われています。これらの筋力が加齢によって衰えてくると、飲み込む力も弱まってしまうのです。歳をとると唾液の分泌量も減ってくるのでなおさら飲み込みにくくなってきます。そうなると心配なのが「誤嚥」です。嚥下能力、つまり飲み込む力が低下するために、本来、食道から胃へ入らなければならない食べ物や飲み物が、誤って気管に入ってしまうのです。それがもとで口腔内の細菌が肺へ回ってしまい、肺炎を起こすのが誤嚥性肺炎です。肺炎は日本では死亡率第4位の疾患であり、中でも高齢者の肺炎の約7割が誤嚥性肺炎だといわれています。健康な人であれば多少の誤嚥では感染しませんが、抵抗力が低下したお年寄りや病気の人は肺炎を起こしてしまい、命に係わることも少なくないのです。そこで誤嚥性肺炎予防のためにも大切になってくるのが「口腔ケア」です。

口腔ケアでまず予防

高齢者の場合、歯や口腔粘膜の清掃によって口腔内を清潔にし、細菌を減らすというケアと、噛んだり飲み込んだりする機能を回復させるケアを合わせてすることは、誤嚥性肺炎の予防に効果があることがわかっています。

一般の人たちにとっても虫歯や歯周病の予防・抑制となるので口腔ケアは大切です。細菌の塊である歯垢を取り去るための歯磨きは、以前は食後3分以内に3分程度の実施が奨励されていましたが、現在は1日1回でも、しっかり歯垢を取り除く方が効果的とされています。5~10分程かけて丁寧に磨き、歯垢を除去することを心がけましょう。もちろん、毎食後磨くに越したことはありませんが、特に夜、寝る前に歯垢を取って細菌を減らす努力をしたいものです。というのも、昼間は会話や食事によって唾液がよく分泌されるので、唾液の自浄作用が働き、細菌の増殖を抑えています。でも、就寝中は唾液の分泌量がぐんと減るので、口腔内の細菌が繁殖しやすいからです。

毎日の口腔内ケアで健康な歯を持つ良好な口腔環境が維持できれば、虫歯・歯周病・誤嚥性肺炎をはじめとするさまざまな疾患の予防になるだけでなく、おいしく楽しく食事ができて、体力・抵抗力アップにつながります。すると運動もできて、筋力アップにつながり、おしゃべりや大笑いもできて免疫力アップにつながります。しっかりケアして口から健康になりましょう。

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