2020.12.24
私たちの体をつくっている臓器や血管、皮膚、筋肉などは細胞でできています。細胞の主な成分はタンパク質です。さらに、さまざまな代謝に必要な酵素もタンパク質からできています。そのタンパク質を構成しているのがアミノ酸なのです。
アミノ酸が数十個以上つながったものをタンパク質と呼びますが、実際は数百個~数千個以上つながっているのが普通です。自然界には約500種類ものアミノ酸がありますが、タンパク質を構成するのはこのうちのたった20種類。どのアミノ酸も共通の構造をしていますが、分子の一部分が異なり、それがアミノ酸の個性を生み出しています。そのアミノ酸の組み合わせでタンパク質が形成されますが、アミノ酸の種類や量、つながる順序が違うだけでタンパク質の性質や働きが違ってくるのです。いわばアルファベットのようなもので、アルファベットは26文字しかありませんが、この26文字の並べ方によって無数の単語ができるのと似て、わずか20種類のアミノ酸で機能の違う約10万種類ものタンパク質ができるのです。ちなみに、タンパク質は英語でプロテイン。これは〝第一人者、一番重要なもの〟という意味のギリシャ語、proteios を語源としています。確かに重要なものです。
体を構成するタンパク質の材料となるものですから、生物はこの20種類のアミノ酸を体内に確保しなければなりません。よって植物はタンパク質に必要なアミノ酸すべてを生合成する能力を備えています。ところが、動物は、他のアミノ酸を原料にして必要なアミノ酸を作り出す能力はありますが、それでも20種類のうち体内では合成できないアミノ酸があるのです。そのため、足りないアミノ酸は食物から摂取しなければなりません。この体内では合成できないけれども不可欠な9種類のアミノ酸を「必須アミノ酸」といいます。一方、体内で合成することができる11種類のアミノ酸は「非必須アミノ酸」と呼びます。決して〝必須ではない〟という意味ではなく、むしろ必須だからこそ体内で合成できると考えられていますので、誤解のないように。非必須アミノ酸は欠乏症はほとんどありませんが、栄養学的に非常に重要であること、さらにそれぞれの非必須アミノ酸単独でさまざまな生理機能があることがわかってきています。
摂取したタンパク質はそのままでは腸から吸収できないため、一度アミノ酸に分解してから吸収され、再び必要なタンパク質に組み換えられます。このようなタンパク質に再合成されるアミノ酸のほかに、細胞内や血液中などに蓄えられ、待機しているアミノ酸もあります。これは遊離アミノ酸と呼ばれ、体内で不足したときにすぐに利用して生体を維持するために重要な役割を担っています。足りないアミノ酸があると必要なタンパク質がつくれない場合があり、また、特定のアミノ酸だけが過剰になっても体調を崩す 場合がありますので、滞りなくタンパク質を合成するにはアミノ酸の種類と量のバランスも大切です。肉に限らず、野菜や穀物など、細胞からなる食材はすべてアミノ酸を含み、その供給源になりますから、さまざまな食物をバランスよく食べることが必要なのです。
私たちが感じる〝味〟には、甘味、酸味、塩味、苦味に加えて「うま味」があります。うま味はかつて東京帝国大学の池田菊苗氏が発見し、いまや国際的に「umami」という共通語になっています。このうま味は、グルタミン酸などのアミノ酸や、イノシン酸などの核酸類の味を指します。アミノ酸と味の関係についての研究が進むうちに、食品に含まれるアミノ酸の種類や量が味に大きく影響していることがわかってきました。肉や魚は新鮮なものはもちろん美味しいですが、少し時間が経つとうま味が増します。これはタンパク質が分解されてアミノ酸が増えるためなのです。昔からおいしく食べたり、保存するために工夫されてきた味噌や醤油、黒酢、納豆やチーズ、生ハムなどの発酵食品もタンパク質が分解され、アミノ酸の宝庫となり、アミノ酸の供給源になると同時に、個性的で豊かな味わいを醸し出しているのです。
野生のライオンは、捕まえた獲物の膵臓や小腸、肝臓をまず食べるといいます。これらの臓器にはアミノ酸が多く含まれているのでおいしいのだとか。その後、筋 肉部分もタンパク質の分解が進み、アミノ酸が増えておいしくなったところを今度はハイエナなど、他の動物が食べるというしくみになっているのだそうです。
アミノ酸にはエネルギー源になるという重要な働きもあります。アミノ酸は体内で吸収されてから、代謝によってグリコーゲンに形を変え、エネルギー源として 蓄えられるのです。また、筋肉中に十分にアミノ酸があれば、筋肉のタンパク質の分解が抑えられ、筋肉の損傷を防ぐことができ、筋肉痛や筋肉疲労が軽くなり、疲労回復も早くなります。筋肉の疲労、損傷が少ないということはケガや故障もしにくくなるのです。この働きは、高齢になるに従い、減り続ける筋肉量を維持するためにも応用できます。予防や改善策として適度な運動に加え、アミノ酸の利用も注目されています。
脳でもアミノ酸は活躍しています。脳には一兆個の神経細胞があり、神経細胞同士でシナプスと呼ばれる接合部位を多数作りながら、膨大なネットワークを作っています。私たちがものを感じたり考えたりするのは、これらの神経細胞間で信号の伝達が行われているからです。シナプスで神経細胞から神経細胞へ信号として分泌されるのが神経 伝達物質です。これまで見つかった多くの神経伝達物質がアミノ酸やアミノ酸に由来する物質なのです。それぞれが固有の働きを持つことで、脳の複雑な機能が発揮されているわけです。
皮膚でもアミノ酸が不足すると角質層の水分を保つことができず、ますます乾燥がひどくなります。アトピー性皮膚炎や花粉症の人は角質層のアミノ酸が少ないというデータもあります。角質細胞の新陳代謝が遅くなり、バリア機能も低下し、肌荒れが悪化していくことになるのです。
このように、私たちの体の中や身の回りのさまざまな分野で重要な役目を果たしているアミノ酸は、単なる栄養素ではなく、その活用法も今後広がっていく可能性を秘めているのです。