2020.12.24
体内に取り入れられた水は、酸素と結合した赤血球や食事で摂り入れた栄養素などを溶かし込み、血液(動脈血)となって体内のあらゆる臓器や組織の細胞に運び届けます。その代わりに不要になった老廃物を受け取って血液(静脈血)やリンパに乗せて運び、汗や尿、便として体外に排出するのも水の働きです。栄養を摂取するだけでなく、老廃物を排泄するというのも体を維持・活性化するためには必要なこと。この働きがスムーズに行われなければ、全身の細胞にダメージを与えることになるため、体内には常に一定の水分が存在し、循環するしくみになっているのです。
その水分量を保つため、私たちは一日に、食事から約1ℓ、飲料から約1.2ℓ、そして体内の代謝による生成で約0.3ℓ、合計約2.5ℓを摂取する一方、汗や呼気で約0.9 ℓ、尿や便で約1.6ℓの合計約2.5ℓの水分を排出して、出入りのバランスをとっています。こうして水は、私たちの体をつくっている60兆個もの細胞を常に満たし、その新陳代謝を担い、生命維持の基本となる働きをしているのです。
もし、体内の水がなくなってしまうと、どうなるのでしょうか。生命維持に必要な水分だから、たった1~3%不足しただけでも体から水を補給するよう緊急指令が出て、喉の渇きとなって現れます。食べ物は全く摂らなくても、皮下脂肪などを消費しながらある程度の期間は生きていけるといわれます。しかし、水は体重の20%を失うと死に至ってしまいます。例えば体重50㎏の人だったら10ℓの不足で危険な状態に。人は1日に約2.5ℓの水分を失っていますから、補給ができなければ4日程で命の危険にさらされることになります。
体内の水分不足が命にかかわる一番の要因は、体温調節ができなくなることです。通常、私たちは気づかないうちに1日に約0.9ℓもの水分を汗や呼気によって蒸 発させ、それが皮膚から「気化熱」を奪ったり、放熱することになり、体温を下げる役割を果たしているのです。暑いときに汗が増えるのもこのためで、水は体温調節に欠かせない存在です。ところが、摂り入れる水が足りないと体内の水分量を保持するため、体は汗や尿などの排出を抑えてしまいます。すると、体内の熱を放出したり、老廃物を排出することができず、熱がこもり、毒素が蓄積してしまうという事態になるのです。これが悪化し、体温が上昇してしまい、意識障害や多臓器不全などを起こすのが熱中症です。特に高齢者はもともと体内の水分量が少ない上に、発汗や暑さに対する感覚などの機能も衰え、喉の渇きを感じにくくなっています。そのため、エアコンの効いた室内にいてもいつの間にか脱水 状態になってしまい、命にかかわる場合もあるので、意識して水分補給を心がける必要があります。
現代は水道の水は飲まず、水を買って飲む人が増えています。市販のミネラルウォーターを見てもわかるように、採水地や成分などでさまざまな種類の水があり ます。そんな水を分類する時に「硬水」と「軟水」というのをよく耳にします。これは1ℓの水に溶けているカルシウムイオンとマグネシウムイオンの量を表わした数値、「硬度」で分類された呼び方です。この数値が120㎎/ℓ未満を軟水、120㎎/ℓ以上を硬水と呼んでいます(WHO 基準)。
水が硬い? 軟かい?
水には、地下水として流れる際、地層に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラルが溶け込みます。ヨーロッパなどでは水脈が石灰岩層などの広い土地を、長い時間かけて流れる間に豊富なミネラルが浸透するため、硬度の高い水が多くなります。日本は狭い土地、急な山を流れる水脈が短いため、ミネラルの浸透が少ない軟水 が多いのです。
硬度によって味も違ってきます。一般に、硬度が低いものやミネラルが多種で微量ずつ含まれている方がまろやかな味で飲みやすく、硬度が高い、つまりミネラル量が多い水は喉ごしが重く、苦さや渋さが感じられるため、特に慣れない日本人には飲みにくいようです。ところでこの硬度、もともとは飲料水のための指標ではありませんでした。昔、給排水管内部にミネラルが付着しやすいかどうかを調べるため、工業用に利用されていたのですが、現在では飲みやすさや健康作用の目安になっています。ミネラル不足、便秘気味の人は硬水を飲む、お料理には軟水を使うなど、硬度や成分によって使い分けるとよいかもしれません。
常に充分な水分を体内に保持するため、私たちが毎日、飲料によって補給すべき水分を大切に考えましょう。
①一番良いのはコップ1杯程度の水を何回も分けて飲むこと。あまり冷たいと胃に負担がかかりますし、吸収しにくくなるので冷やしすぎない水を飲みましょう。
②飲むタイミングも大事です。起床時と就寝前はもちろん、入浴前後も、発汗で血液濃度が高くなるのを防ぐための基本的な水分補給タイムです。朝、目覚めの水は新陳代謝を活発にし、寝る前の水はリラックス効果もあります。ただし、就寝直前だと腎臓に負担をかけるので30分位前に。また、食事中や食後すぐは胃液が薄められたり、消化の際に水を溜め込みやすく、むくみの原因になることも。水を飲むなら空腹時の方が適しています。
③お茶やコーヒー、ビールを飲んでいるから水分は足りている、と思っていませんか。カフェインを含む飲料やお酒類は利尿作用があり、飲んだ分量以上の水分が排出されてしまいます。特に夏はビールがおいしい季節ですが、アルコールは利尿作用に加えて、体温を上げて発汗させる作用もあるので、その分、水の補給を忘れずに。
④汗はそのほとんどが水分ですが、ミネラル分も含まれています。運動などで急激に大量な汗をかくとミネラル分も失うことになります。だからといって水をガブ飲みすると、その刺激で発汗量が急増して体温を奪ったり、よりミネラルを排出させてしまったり、腎臓へも負担をかけます。急激な発汗後や脱水状態の場合はスポーツドリンクなどの補給が効果的ですが、通常は運動中でも失った分だけこまめに水を補給するのがポイントです。
⑤水を飲むと「むくむ」とか「水太りになる」と心配する人がいるかもしれません。でも、それは逆。むくみは、血流やリンパなど、体内の水分の循環が悪いために起こります。水分が足りないと汗や尿が出にくくなり、代謝機能が低下し、老廃物や水分が溜まってしまいます。それがむくみや冷え、便秘の原因になる場合もあるのです。水を飲むと、体の中ではさまざまな代謝活動が起こり、それだけでもエネルギーを消費することになります。こまめに水を飲んでいると脂肪も燃えやすく、太りにくい体質になるそうです。
体のための飲み方ガイド
夏は汗をかきやすい反面、冷房などでかえって喉の渇きを感じにくい人も多い季節です。喉の渇きを覚える前に水分を補給する習慣をつけましょう。体内の水の循環を良くし、新陳代謝を活発にすることが、みずみずしい細胞、クリーンな身体を保つ秘訣です。